気持ちを、
前に向けて

宇宙で活動するための訓練に必要な
知識、技術、
そしてマインド

訓練インストラクタ 濱田 直樹/大庭 美彩

「またここで再会するため」の訓練

See you again.

なにげなく、これまで幾度となく交わしてきた「また会おう」の言葉。そこに、これまでなかった思いがこめられる。JAMSSは、そんな場所だ。そのことを日々強く感じているのが、訓練インストラクタという仕事なのかも知れない。

訓練インストラクタは、宇宙飛行士が宇宙空間で活動を行うために必要な知識、技術、そして心構えを修得するための訓練を提供する。訓練はきぼう基幹システム、サイエンス、異常時対応など多岐にわたり、それぞれ認定試験に合格したインストラクタが担当。訓練は半年後から1年後にきぼうで宇宙飛行士が行う作業を見越して訓練インストラクタは議論や検討を繰り返し、訓練内容を構築する。インストラクタ全ては、宇宙飛行士がスムーズかつ安全に活動を行うために。そして、元気に地球に戻ってくるために。

訓練が終わり、宇宙へと旅立つ宇宙飛行士に送る「See you again.」にはそれぞれの訓練インストラクタの思いがこめられる。何年後になるかわからない。それでもまたここで、きっと会おう、と。

いつか自分の手で、
宇宙飛行士を宇宙へと送り出す

未来への誓いや期待。それが大庭美彩がこめる思い。

認定試験合格に向けて勉強を続けている大庭。そのかたわら、NASAのエンジニアや訓練インストラクタと3週間にわたり作業を行ったり、来日した宇宙飛行士をアテンドして宇宙センターの設備紹介を行ったりと、入社1年目から大きな活躍を見せている。

小さな頃から宇宙飛行士になることが夢だった大庭。学生時代は、宇宙飛行士の講演などにも積極的に参加した。ただ、身長が基準に満たず、その夢は保留に。少しでも宇宙飛行士の近くで働きたいとJAMSSを志望した。そして、訓練インストラクタの仕事を選んだ。

「訓練インストラクタは、宇宙飛行士以上に『きぼう』について熟知しなければ務まらない。そのために実物大の訓練用モックアップの中で宇宙飛行士の動きを様々に想定し、訓練を作って行く。夢の一部が叶ったと感じる瞬間でもある」
と大庭は話す。まだ訓練はできないが、憧れだった宇宙飛行士たちと会話し、触れあう機会も増えた。以前、講演を聞いて夢を膨らませた宇宙飛行士との再会もあった。
「いつかは自分が訓練を提供した宇宙飛行士が、自信を持って宇宙に旅立っていく。その背中を笑顔で見送りたい」
そのためにも認定試験にパスし、訓練インストラクタとなること。それが目標だ。「宇宙飛行士たちに次に会うときには、一人前の訓練インストラクタとして」そんな誓いと自分への期待をこめて、大庭は宇宙飛行士たちに「また会いましょう!」と言葉を送る。

宇宙飛行士が 無事に地球に戻ってくるために、 何ができるのか

2020年、濱田直樹の入社当時、新型コロナウイルス感染症の流行の影響を受け、訓練のための宇宙飛行士の来日は全てストップ。訓練はオンラインで行われることに。それでも自分が訓練した宇宙飛行士がISSへと旅立つ打上中継を見て大きなやりがいを感じた。「この仕事を選んでよかった」という実感と共に、責任も感じた。
2年後、しかしそれではまだまだ足りなかったのだ、と濱田は気づく。

2022年、宇宙飛行士の来日訓練が再開。これまでの「訓練の時間に画面の中だけ」というコミュニケーションが、がらりと変わった。濱田は、後輩の大庭と宇宙センターの設備紹介のアテンドを行った。一緒に七夕の短冊を作って日本文化に触れてもらうといったイベントも開催。今までオンラインでは技術的な話しかできなかった宇宙飛行士たちと、より良い、そして深い関係を構築することができた。

「宇宙飛行士たちにも人生が、生活がある。家庭があり、待っている家族がいる。その人たちの元へ安全に返すための訓練を、自分は担当しているのだ」

「この人のために動きたい」という意識が芽生えた。もっと自分にできることは。もっと彼らのためにできることは、なんだ。そう問うことで、濱田の訓練が変わった。「彼らは400kmも重力に抗って飛び立ち、限られた時間と空間の中で活動する。それを成功に導ける訓練を考えねば」と考えるようになった。

「この人のために。そういう感情で動くと、自然と自信が増し、それが自分の行動にも出る。それが相手に伝われば、彼らの自信にもつながる。それがわかった」
訓練を通し、以前より力強く背中を押せている。濱田はそう感じている。
ISSへと打上げられる宇宙飛行士たちを見る。拳を、今までより強く握っていた。「行け」。体が知らず前のめりになる。「そしてまたいつか、必ずここで会おう」。祈るような思いをこめて。

2020年中途入社
専攻:環境土木工学系

濱田 直樹(Naoki Hamada)
/有人宇宙技術部 有人グループ 主務

生まれは大阪、10歳からオーストラリアで暮らし、英語と関西弁のネイティブに。生粋のオーストラリア英語を話す日本人として、宇宙飛行士の間で話題になったことも。前職では上下水道の土木・機械設計、プラントエンジニアなどを経験し、機械・電気・制御・通信に専門性を持つ。それらを活かし、歴代最速の期間で訓練インストラクタ認定試験に合格している。

2021年新卒入社
専攻:航空宇宙工学系

大庭 美彩(Misa Ohniwa)
/有人宇宙技術部 有人グループ 主務

「空を飛びたい」という気持ちがきっかけで宇宙に憧れ、宇宙飛行士を目指す。大学と大学院では宇宙に関わる2つの分野を専攻。残念ながら身長が基準に満たず、夢は一旦保留に。「ならば宇宙飛行士を支える仕事に!」と“有人”宇宙を掲げるJAMSSを志望。好きな場所は「きぼう」の実物大モックアップ。「宇宙飛行士になる夢が叶った気がするから」とのこと。いつかSサイズの宇宙服ができる日を心待ちにしている。

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