動かないこと。
それが動かすもの。

決して妥協することを許されない、
安全・リスク評価

安全・リスク評価業務 三木 優己

前例のないチャレンジに挑む

2004年の入社以来、三木優己は一貫して安全・リスク評価業務に従事してきた。「きぼう」「こうのとり」などの安全評価にはじまり、人工衛星や探査機などのロケットペイロードの安全評価にも活動を広げてきた。

そのキャリアの中で、ひとつだけ確信を持って言えることがある。
「宇宙開発において、絶対に事故が起きないシステムの作り方かを知っている人は、世界中を探してもいない」
ということ。つまり「完全に安全だ」といえるものはない、ということになる。


「宇宙はいまだ多くのことが未解明。宇宙開発はそこに果敢に挑むものであり、リスクが高いものである。さらに、各国の各組織がそれぞれに開発を進めており、できあがるのは唯一無二の機器ばかり。そこに最大公約数的な正解は有り得ない。」
だからこそ面白い、と三木は話す。それぞれのチャレンジが、どのように行われるのか、どんな機器が使われ、どのように操作され、動くのか。それをひとつ一つ理解し、分析し、リスクを予測し、安全要求と照らし合わせつつ、安全であるかどうかを判断する。安全のセオリーはあっても、それぞれのシステムに合わせて安全を構築していく必要があるのだ。時には設計者や開発者に再考を提案することもある。議論がはじまり、数ヶ月にわたることもある。
「どんなときも、ただひとつ揺るぎなく、絶対に譲れないものがある。それは『宇宙飛行士が長期間そこで生活しても安全なものを構築する』ということ。私の全ての仕事は、その要求を満たすためにある」

「宇宙の安全を守る専門家集団」
としての誇りを持って

「冷静に未来を読み解く。そんな姿勢で臨みます。しかし、キャリアが浅いときには、ドライに過去事例に照らして○か×かを伝えるだけになってしまい、理解や納得を得られないことも多かった。私自身は、開発も運用もしない。だからこそプロジェクトに寄り添い、同じゴールを見ている一員だと分かってもらうことが大切だった」

それを実感し、三木は自身の専門分野だけでなく、宇宙開発における開発や運用に関する様々な知識を習得するよう心がけた。また教科書だけの勉強に留まらぬよう、積極的に設計者や開発者と多くの意見交換の場を持つようにした。そうすることで同じ目線で話ができるようになった。そこまで5年以上かかったという。

「それでも主役はプロジェクトの方々であって、私たちは縁の下の力持ちです。プロジェクトが安全評価を確実に実施してもらえれば、我々のような集団は不要とも言えます。だけど、自分たちのやりたいことに集中しすぎてまわりが見えなくなる恐れがある、そんな方々に寄り添って、行き先をガイドしてあげる存在なのです。」
「特に安全は、保たれることが目的。つまり何もないことが、いいことであり、当たり前なのです。だから私たちの仕事が表立って評価されることは、ほとんどないんです」
そんな縁の下の力持ちの存在である自分たちを奮い立たせるため、存在をアピールするため、
「宇宙の安全を守る専門家集団」
というフレーズを使うようになったと、三木は話す。

より大きなステージへと、 活躍の場は広がる

現在まで、日本の有人宇宙活動はいまだ安全を脅かす大きな事故を起こしていない。それは「宇宙飛行士が長期間そこで生活しても安全なものを構築する」を絶対に譲れないものとしてひたすらに目指す、三木たちの存在があったからだ。
そんなJAMSSの、20年以上にわたる安全審査活動が認められ、「きぼう」や「きぼう」に搭載される全ての機器、「こうのとり」など、日本の開発するシステムに対する安全評価が、すべてJAMSSに依頼され続けてきたのである。かつて無い偉業の達成である。まさに、独立した「宇宙の安全を守る専門家集団」と認められたのだ。

今後はISSに留まらず、国際月探査アルテミス計画における安全評価やスペースデブリ発生防止、軌道利用安全、惑星等保護などにもその活動の場を広げていく予定だという。

「この仕事は面白い。そう話した理由の一つに、どれだけやっても新しい発見と刺激があることが挙げられる。スルメみたいなものですよ。噛めば噛むほど、また違った味がする。活動の幅が広がれば、さらに面白くなるでしょう。なにより、安全が保たれれば、宇宙開発が中断されることなく、より確実に、さらに一歩先へと前進する。それがまた、この仕事を面白くするのです」
と三木は話す。その笑顔には専門家としての誇りが確かに浮かんでいた。

2004年新卒入社
専攻:X線天文学専攻

三木 優己(Masami Miki)
/安全開発・ミッション保証部
次世代S&MAグループ グループリーダー

「この仕事にゴールはない。ゴールを迎えた、と思ったらそれはアウトの印」とはなす三木は、チームとともに様々な分野の技術などの知識を高め、全体のレベルアップを図っている。そのゴールなき仕事の反動なのか、趣味は登山。「テントを持って行き泊まりがけで行くことも多い。山だからこそ見られる満天の星空が大好きです。宇宙を感じられますね」。

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